DOG GONE

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カナダ生まれのイギリス在住の獣医師ブルースが愛犬メイシーとの別れを通して
人間と犬との関係を語ります。Independent紙に掲載された原文はもっと長いですが、
独断で少々はしょりました。

錨を失い、漂流している気分だ。結婚生活が暗礁に乗り上げたのではない。
子供が病気になったわけでもない。失業もしていないし、引越したのでもない。

私の犬が死んでしまったのだ。

6歳のゴールデン・レトリーバー。毎日公園で見かけるあの犬だ。
暖かく、柔らかく、美しく、愛すべき私の犬。北米やヨーロッパへの旅行の同行者でもあった。

犬の感情を擬人化するのを嫌う向きもいるが、私は半々である。
クリスマスに犬に帽子をかぶせたり、飾りをつけたりするのは嫌だけど、
犬は人間のような複雑な感情を持ち合わせていないと
本気で考えている人々がいる事が信じられない。

私の犬メイシーは他の犬からおもちゃをとられると嫉妬心に燃え、
見たこともない物に対しては警戒する。知り会いの犬や人間に会うと喜ぶ。
そっとされることを好む時がある。知らない人が近寄ってくると用意周到になる。
感情を全部出さずに溜めておく事さえもできる。

さて、人間にはもっと複雑な感情があるが、
愛というものを言葉に置き換えずに表現できるだろうか。
たとえば言葉なくとも、妻ジュリアのまなざしの中に
私への愛が見て取れる。(激怒した時やいらついた時も)
メイシーもそのまなざしに似た瞳で私を見つめる。

しかもこれ以外の目使い術もいくつか持っている。
絶対的な、どうしようもない、クレイージーな私への熱い視線。
その目は私の叔父が一回り年下の女性に 恋をした時の眼と全く同じだった。
世界で私が最も興味のある対象であり、
今まで出くわした人物の中で最重要人物だと思っていると確信させるまなざしであった。

次に物理的なコンタクトというのがある。
ゴールデンレトリーバーは特にこの術に長けている。
身体を押し付けてくる。家に戻るたびにあいさつのために足にすりよってくる。
公園でも椅子に座っているときにもこれをやる。
「とても愛しているのです。それをこうやって見せているのです」
というボディランゲージである。

人間はなぜこんなに激しく依存してくる種を愛するのか?
子供には小さいときからいずれ独立するよう訓練しているではないか。
それなのに犬の依存は一生ものであることを知りつつ、
それゆえに溺愛しているではないか。 
進化生物学者は言うだろう。
「飼い主を永久に必要としていると確信させる能力が犬にとっての切り札である」と。

多くの犬と同様、メイシーは無条件の献身、
掛け値なしの信頼を常に変わらず与えてくれた。
彼女の願うことはいつも明確である。私といること。
たとえどんなに深い森で迷っても、彼女の意思はただひとつ、
戻ること、私を見つけること。私ともう一度一緒になること。
どの国の文化だって同じである。犬が主人の帰りを待つ。
主人がたとえ死んだとしても待つ。究極のセンチメンタルだ。
しかし、それのどこが悪い。同じくらいの愛情を誰が注いでくれるだろう。

犬との散歩は人生の豊潤のひと時であり、
犬が死んでしまった時に一番寂しく思うことであろう。
ある日、いつもなら私の前を歩くメイシーだが、
その日たまたま横に並んだ。
私はそこで彼女の身体に卵大の硬い塊があるのを見つけたのである。
私はメイシーの飼い主であるとともに獣医でもあった。
自分自身にも妻にも卵巣シストだというふうに振舞っていたが、
そんなものじゃないことはわかっていた。

その夜、メイシーはジュリアの横にきて、目に心配の色をたたえ、息を荒くしていた。
痛み止めを飲ませると落ち着いた。翌朝開腹すると内出血を起こしている。
場所を特定し、出血をとりのぞいたが、他にもたくさんある。
膿がたくさん出ていてこれもきれいにしたが、全部とりきれない。多すぎるのである。

診療所パートナーのベロニカと3時間の腫瘍摘出手術を行った。
手術後マスクをはずしたベロニカの目は
「かわいそうなメイシー。かわいそうなブルース」と言っていた。
私はどうして手術なぞしたんだと苦々しく重い気持ちであった。

4日後病理結果がきた。皮膚を原発とする進行がん、
すべての臓器に侵食しているということである。
残り時間は少なく、それもあまり心地よいものではない。

メイシー失いたくなかったが、このまま麻酔から覚めてほしくもない。
麻酔を大量にを投入し、ジュリアのもとへ連れて帰った。
それ以降ソファの上で痛み止めの点滴を施されたメイシーは暖炉の横でほとんど寝たままだ。
その夜メイシーは死んだ。目覚めて苦しむこともなく。

明け方、私は低木の下に穴を掘り、暑い日、日陰の下に静かに横たわらせた。
コンクリートのように固い土であったが、
以前にもリバティとレックスを庭のお気に入りの場所に埋めた。
無垢な友人たちへの最後の感謝の気持ちである。
死後硬直が終わったメイシーは抱き上げると首が花の茎のように垂れる。
彼女が誇らしげに見つけた行方不明になっていたボール11個も一緒に入れた。

その週、アメリカの出版社からワイオミングのアウト・ドアマン、
テッド・ケラソートの知的で魅力的な彼の人生と
メールという犬の事を書いた本が送られてきた。
帯を書くように依頼されたのである。

犬に関するすべての本には終わりがある。
メールの最後をテッドはこのように結んだ。

「どうしてだか、メールの尻をきれいにしているときにヤツは逝ってしまった。
でもこんなものかもしれない。
犬というやつはいつも他の犬の顔より反対側の方に興味があったからな」

半分笑いながら、半分泣きながら、私は突然自分の関節がゆるくなり、
支えていたものが溶けてしまったような感覚に襲われた。
「マイドッグ!!」犬のいなくなった家の中で叫んだ。

私自身の経験からそして多くの他の人たちを見ていて思うのだが、
犬を亡くすことの苦しみは乗り越えることができるはずである。
人間を失うことと犬を失うことには違いがある。
犬と一緒の生活は単一でも唯一のものでもない、再構築できるものである。
犬が死ぬ。もちろんその犬の代わりはいない。
しかし犬と暮らすというコアな価値は
他の犬によって埋めることができる。

メイシーは結婚してから飼った4番目の犬である。一番一緒に旅行した。
彼女の突然の死に受けた衝撃の大きさに自分でもびっくりしている。
若すぎたからだろうか。それとも他の誰よりも一緒に旅行をし、多くの道を歩き、
いろいろな経験を分かちあったからだろうか。
もしかして、彼女は最初のデジタルドッグだったからかもしれない。
パソコンのスクリーン・セーバーにメイシーがあちこち出現する。
ロシアの国境線、だれもいないオレゴンのビーチで穴を掘っているメイシー。
ベニスの花カフェ。思い出は永遠に続く。
しかし私は次に必ず起こる嬉しい事も知っている。
メイシーは近いうちに5番目の犬にバトンを渡すのである。

Dog Gone



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こんにちは

飼ってたペットが亡くなる度に、もう飼うの嫌だと
思うのですが、なんなのでしょうね。また、我が家
には猫が家族になってます。たまたま、模様が
同じような猫だったんです。縁かなと思います。
記事も転載させてください。
よろしくお願いいたします。

Re: タイトルなし

NTLさん、こんにちは

ペットロスの記事はたくさんありますが、
「人間と動物は違う」という意見をご紹介させていただきたいと思いました。
同じ位置での比較ではなく、優劣の論議ではなく、
まったく次元の違うものだと思います。


Re: こんにちは

そらまめさん、こんにちは。

私もペットを亡くしたときは「もうこんな思いをするのは絶対いや!!もう絶対飼わない!!」と
まなじりを決するのですが、しばらくするとどうもそわそわして
何となく落ち着かなくなります。(笑)

記事のご紹介ありがとうございます。もう少し短くすればよかったかなと思っています。

記事の長さは…

記事は詳細まで分かりやすくて、私には丁度良い
読み応えがありました。素敵な写真と、邦子さんの記事の更新を、毎回楽しみにしています。

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Re: 記事の長さは…

そらまめさん

ありがとうございます。
そのようにおっしゃっていただけると
更新の励みになります。

愛犬の追悼記事というのは、思いがあふれ出すのでしょうね。
いつも長いですね。

Re: タイトルなし

NTLさん

知りませんでした。早速ネットで読んでみると
とても素晴らしい詩です。
本当に素晴らしいです。

教えてくださってありがとうございます。
拙ブログでご紹介させていただいてよろしいでしょうか?

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Re: タイトルなし

NTLさん、

ありがとうございます。
いつも応援していただき、感謝しております。
プロフィール

ノーマンテイラー邦子

Author:ノーマンテイラー邦子
ロンドン在住/通訳・翻訳業
保護猫延べ6匹、保護犬一匹、庭にキツネ3匹ほど
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